鍼とお灸はどのように生まれ、現代においてどのように使われているのか。そしてその効果はどのようなものなのかをご紹介していきます。鍼灸の歴史は長いので、一部不確定なこともあります。ご了承ください。
鍼の起源は、約3000年前の中国が発祥とされています。
肩がこるとつい手が肩にいってしまい、おさえたり、叩いたり、そして湿布を貼ります。これがいわゆる「手当て」の始まりと言われています。同じようなことを、古代中国のお針子さんが、自分の仕事道具である裁縫のはりを使ってみたことで、なんとなくツボが発見されたそうです。古代中国は絹の生産が盛んに行われており、絹を裁断して縫い合わせる仕事をしていたのがお針子さんでした。裁縫や編み物を長時間続けることは現代のデスクワークと同様に、肩こりや腰痛、頭痛、不眠などを引き起こします。その時、自分が使っている鍼を首や頭に刺してみると、不思議と気持ちがよかった。それを繰り返していくうちに、特定の場所に効くところが発見され、それが後に「ツボ」となり、専門的には「経穴(けいけつ)」と呼ばれるようになりました。そして経穴が定められると、その流れに沿って特定の病気に効果がある。この流れを「経絡(けいらく)」と呼ぶようになりました。
中国には東洋医学の文化があります。東洋医学は、病気をエネルギーの流れが乱れた時に起きるとされています。このエネルギーを「氣(き)」と呼びます。氣の流れが正しく保たれているのが健康という状態です。氣の流れを乱してしまう要因が、ストレス・食べ過ぎ・不眠・過剰労働などです。昔も今も、生活習慣が乱れると病を引き起こします。例えば、ストレスは氣の流れを逆上させるので、頭に血がのぼって怒りっぽくなります。
このように病気と関係する氣の流れは、経絡に沿って流れており、経穴は氣がよく集まる場所と言われています。そのため、押すと硬かったり、気持ちいいと感じたりします。鍼灸師はこの「氣の流れ」をコントロールする施術を行なっていました。
そして科学が進歩した現代では、鍼灸の効果を科学的に解明する研究が行われるようになりました。鍼を体内に刺すことで、局所の血流促進・発痛物質の除去・神経系への関与など、痛みを緩和させる証拠が見つかってきました。お灸も同様に、温熱作用による血流促進・神経系への関与が痛みの緩和につながると考えられています。
研究の成果や臨床の結果から、1979年、WHOは鍼灸の適応症を発表しました。1997年には、NIH(アメリカ国立衛生研究所)が、「成人の術後および化学療法による嘔き気・嘔吐、歯科の術後痛、妊娠悪阻(つわり)は鍼が有望とされる。そして、薬物中毒・脳卒中後のリハビリテーション・頭痛・月経痛・テニス肘・線維性筋痛症・筋筋膜痛・変形性関節症・腰痛・手根管症候群・喘息は補助療法として有用される」と発表しました。
現在日本の医療保険制度において、「神経痛・五十肩・リウマチ・頸腕症候群・腰痛症・頚椎捻挫後遺症」が鍼灸の適応疾患とされており、医師の同意があれば保険を使った治療が受けられます。
何千年も受け継がれた経験と、それを裏付ける科学的根拠が確立されつつあります。しかし、鍼灸にはまだまだ不確かなところがあります。いわゆる「摩訶不思議な効果」は、人間の神秘と言えるのではないでしょうか。その神秘が解明されることで、不治の病の治療法も見つかる日が来る…かもしれません。